脳疾患を患うと様々な後遺症を伴いますが、麻痺や言語障害は比較的目に見えやすい症状である為、脳疾患の後遺症の中でも認知度の高い症状ではないでしょうか。
しかし、今回解説する嚥下(飲み込む事)障害は、命にも関わるかもしれない危険な後遺症です!
そこで今回は、脳疾患と嚥下障害の関係性から、そのメカニズムについて解説していきます!
目次
嚥下障害とは
嚥下障害について解説して行く前に、まず嚥下とは何かについて解説していきます。
嚥下とは、飲み込む事を言います。私達が普段何気なく行なっている「食べる」という行為は、実は非常に複雑な働きをしていて、全部で5つの時期に分けられています。
先行期(飲食物の認識)
この時期は、飲食物を目で確認し、その形や量を元に、食べる方法や唾液の量を調整するなど、食べる為の準備をする時期になります。
準備期(咀嚼と食塊形成)
この時期は咀嚼(そしゃく)と言って、口に入れた食べ物を噛んで、飲み込みやすい塊にします。
準備期で重要なのは、舌の動きです。
舌は、食べ物が飲み込む塊になる前に喉の奥に落ちるのを防ぐとともに、歯で噛めるように食べ物を口の中に留めます。
この舌の働きや顎の力などによって、食べ物と唾液が混じり合い、飲み込みやすい塊が作られます。
口腔期(口腔〜咽頭)
形成された食塊を口の中から喉(咽頭)に送り込む時期です。
咽頭期(咽頭〜食道)
食形を咽頭から食道に送り込む時期です。ここで食塊が気管に入らないようにする事で、誤嚥を防ぎます。
食道期(食道〜胃)
最後は、食塊を食道から胃に送り込みます。ここでは、上食道括約筋という筋肉の働きで、食塊が逆流しないように働きます。
嚥下障害は、脳疾患により咀嚼(噛む事)や嚥下に必要な筋肉が麻痺する事で、口腔期~咽頭期のどこかに問題が生じます。
これにより、飲み込みが困難となる事やムセ込みやすくなり、誤嚥性肺炎を起こしてしまいます。
誤嚥性肺炎とは咽頭期の異常で、食べ物や唾液が、食道ではなく気管に入り、気管の先にある肺に細菌が入り込んで繁殖して起こる肺の炎症の事を言います。
肺炎は、日本人の死因の第3位となっており、中でも誤嚥が原因で肺炎になるケースは、70歳以上の方で実に約70%以上にもなります!
嚥下障害は、飲み込みや噛む事が困難となるだけでなく、命の危険もある怖い後遺症です!
この嚥下障害の原因に大きく関与しているのが、脳疾患の中でも発症頻度の高い脳卒中です。
その比率は、摂食・嚥下障害の原因疾患のおよそ40%を占めています。また、脳卒中を発症し、自宅に戻ってから誤嚥を起こす割合は、約5%と言われています。
数字を見ると一見少なく感じますが、脳卒中を発症する患者数は、年間約40万人です。
この内、嚥下障害を患った人は年間2万人程。これは、脳卒中だけをみたものなので、実際にはこの半分以上の方が、嚥下障害を患っていると思われます。
脳疾患以外でも加齢による筋肉の衰えや歯の弱化、認知症などでも嚥下障害は起こります。
実際、私が見てきた脳疾患を患った利用者さんの中にも嚥下障害が元での誤嚥性肺炎を起こし、入院を余儀なくされた方が何人かいました。
また、肺炎にはならなくても嚥下障害によりむせ込みやすい方は多く、常に誤嚥性肺炎の心配がありました。
嚥下障害で誤嚥を防ぐ為の注意点とポイント
嚥下障害で怖いのは、先述したように誤嚥です。ですので、日常生活では転倒と同様に誤嚥を防ぐ事が重要です!
また、嚥下障害があると十分に食事が摂れなかったり、誤嚥を心配して食事量が減ってしまうこともあり、必要な栄養が不足してしまうこともあります。
ここでは、嚥下障害による誤嚥を防ぐ為の食事の注意点やポイントをお伝えします!
誤嚥を起こしやすい飲食物
嚥下障害のある方が誤嚥を起こしやすい食べ物には、以下の物があります。
- 水やジュース
- 味噌汁
- スープ系
これらサラッとした液体は、飲み込んだ際の落下するスピードが速い為、嚥下障害によって喉の反応が鈍くなると、気管に流入してしまい、誤嚥を起こしやすくなります。
・肉系
・根菜系(たけのこ、れんこん、ごぼうなど)
・貝やたこ、いか
これらは、硬い上に塊になりにくい為、誤嚥を起こしやすくなってしまいます。
・パン
・菓子類(カステラやケーキ、クッキーなど)
これらは、水分が少なく、口の中にくっつきやすい為、むせ込みやすくなります。
他、餅やだんごなど粘り気のある食べ物は、詰まりの原因にもなる為、嚥下障害のある場合は要注意です!
誤嚥を防ぐ食べ物
脳疾患により、嚥下障害が後遺症で残ってしまった場合、どんな食べ物を選び、工夫すれば良いのでしょうか?
飲食物の選び方のポイントは
- 柔らかい
- 喉越しが良い
- 口の中でまとまりやすい
などの条件を満たしている物です。
例えば、ヨーグルトや豆腐、杏仁豆腐などです。これらは、調理を施さなくても上記の条件を満たしているので、そのままでも安心して食べる事ができます。
それ以外の食べ物では、食べやすい大きさに細かくしたり、硬いものであれば、ミキサーにかけてペースト状にするなどの工夫をすると飲み込みやすくなります。
また、水分やスープ状の物は、市販されているトロミ剤や片栗粉を使用して粘り気を出す事で、誤嚥のリスクを減らす事ができます。
ただ、障害の程度や状態によって、トロミの濃度の調整が必要になる為、細かい調整など分からないことは、栄養士や言語聴覚士などの専門家に相談してみてください。
最近ではゼリータイプのスポーツドリンクや熱中症対策に効果的な経口補水液が出ているので、水分補給にはオススメです!
また、食事の際の姿勢も大切です!
背中が丸まった状態になると、首は反り返りやすくなります。この状態では咽頭が狭くなるなどしてむせ込みや誤嚥を起こしやすくなってしまいます。
それらを防ぐ為に、背もたれから背中を離し、背筋をできるだけ伸ばして食事をしましょう!
また、テレビを観ながら、話しながら、などの所謂ながら食いも誤嚥の可能性があるため、気を付けましょう!
嚥下障害のリハビリ
脳疾患によって嚥下障害を患った場合、食べ物や姿勢の工夫と合わせてリハビリを行い、嚥下に必要な動きを鍛えるアプローチも必要です。
ここでは、日常で行える嚥下障害に効果的なリハビリ方法をお伝えします!
ストレッチ体操
食事をする時の姿勢が大切であるように、筋肉もリラックスしている事が良い姿勢を保つのに大切です。また、嚥下に必要な筋肉は、首に集中しています。
ですから、首や肩回りのストレッチで、筋肉をほぐしておきましょう!
具体的には
- 首を上下、左右に動かす。
- 首を回す
- 肩の上げ下げ
- 肩を回す
などの運動を通して、食べる前の準備を整えます。
発声・発音の練習
よく、発声・発音の練習で使われる体操に「パタカラ体操」というものがあります。
これは、「パ」「タ」「カ」「ラ」の4つの音を声に出すだけの単調な体操なのですが、嚥下障害のリハビリに効果的です!
理由には、それぞれの音にあります。
パ → 唇の筋肉を鍛えることで、食べ物が口の外にこぼれないようにします。
タ → 上顎から下顎へ舌を打ちつけて発音することができる為、舌の筋力を鍛えて飲み込みの向上になります。
カ → 力を込めて発音することで、飲み込んだ食塊を誤嚥しないように力強く食道に送り込む練習になります。
ラ → 舌を上の前歯につける動きが、食塊を喉に送り込むための舌の動きを鍛える練習になります。
この体操によって、嚥下に必要な要素を総合して鍛える事ができます!
まとめ
いかがでしたか?
脳疾患を発症すると、麻痺や言語障害の他に嚥下障害という飲み込む機能が弱くなる後遺症を生じます。
嚥下障害は、誤嚥性肺炎のリスクを高め、場合によっては命に関わる事のある危険な後遺症です。
これを防ぐ為には、飲み込みやすい食べ物の選定や工夫、誤嚥を起こしやすい食べ物に注意することが必要です。
また、食事の姿勢や嚥下障害のリハビリを通して喉の機能を高めていくことも誤嚥の予防に重要です!
こちらの記事もご覧ください