脳幹出血を発症すると、意識障害や呼吸の障害など重度の後遺症が残ります。また、脳幹に中枢がある姿勢保持機構に支障が出ると、めまいが生じる事があります。
姿勢とめまいにどういった関係があるのでしょうか?
今回は、脳幹出血の後遺症とめまいが起きるメカニズムについて解説するとともに、リハビリのポイントをお伝えします!
目次
脳幹出血の後遺症
意識障害
意識(覚醒状態)を保つには、脳幹にある網様体という部分が重要な役割を担っています。
触覚や運動覚(身体が動いている感覚)、温痛覚などの感覚情報は、体中に存在する受容器で入力された後、脊髄を上行し、網様体を通過します。
網様体は、それら感覚情報を大脳に伝える事で、意識を保つ役割があります。ですから、脳幹出血により網様体の働きが阻害されると、意識を保つ機構が働かなくなり、意識障害が後遺症として生じます。
呼吸障害
呼吸の中枢は、脳幹の橋と延髄に存在し、私達が眠っている時も休む事なく自律的(自動的)に働いています。
呼吸は、呼気(吐く)と吸気(吸う)によって行われています。これら呼気と吸気のリズムを調整しているのが、延髄に存在する呼吸中枢です。
そして、環境や身体状況に応じて臨機応変に呼吸のリズムを調整しているのが、橋に存在する呼吸調整中枢です。
つまり、延髄の呼吸中枢で呼吸運動を行い、橋の呼吸調整中枢でリズムを整えています。
ですから、脳幹出血により呼吸中枢に障害を受けると、後遺症として呼吸の障害を伴い、重度になると人工呼吸器の装着を余儀なくされます。
嚥下障害
嚥下の中枢も脳幹に存在し、大脳からの指令や口や舌、鼻や顔面などの感覚情報が脳神経を通して脳幹や大脳に伝わり、嚥下運動を調整しています。
脳神経とは、口や舌、鼻などから入力された感覚情報が、直接脳に伝わる神経のことです。
嚥下に関係する脳神経は以下の通りです。
- 三叉神経:顔面、 鼻、口、歯の感覚、咀嚼運動(食物を噛む)
- 迷走神経:内臓の感覚
- 舌咽神経:舌の後ろの感覚、味覚、唾液分泌
- 舌下神経:舌の運動
そして、脳幹が嚥下中枢と言われる訳は、パターン発生器と言われる器官がある為です。
パターン発生器とは、順序の決まった運動を起こす器官であり、これが大脳や各感覚器官からの刺激を発端として自律的な嚥下・咀嚼運動を調整しています。
きっかけがあれば、後は意識しなくても自動的に口は動くという事です。誰だって物を噛む時にいちいち意識してはいませんよね?
動きが始まってしまえば、後は感覚情報を頼りに嚥下や咀嚼の強さやスピードを調整する事ができます。
従って、脳幹出血を起こすと嚥下・咀嚼を起こす脳神経やパターン発生器の働きが低下し、嚥下障害が後遺症として表れます。
麻痺・感覚障害
身体を動かすために大脳から筋肉に向かって指令を出す運動神経や筋肉や皮膚にある受容器から大脳に向かう感覚神経は、脳幹を経由します。
従って、脳幹出血によって麻痺や感覚障害が後遺症として生じます。
ちなみに、出血が大きいと四肢麻痺となる場合もあり、出血が小さいと片麻痺となります。
失調
失調とは、麻痺がないのにも関わらず、手足の動きがぎこちなくなり、上手く操作できなくなる事を言います。
ペットボトルを掴む動作を例に挙げましょう。
- 手を伸ばす時、手がグラグラと動揺して真っ直ぐ伸ばせない
- 力の加減ができない
- 手を目標地点より伸ばし過ぎる
これらの症状により、ペットボトルをうまく掴めなくなります。
本来、ペットボトルに真っ直ぐ、そしてピッタリの距離感で手を伸ばし、適度な力で掴む動きは、意識せずとも自然と行えています。
この身体中の筋肉が協調して働き、滑らかな動きを可能にしているのが、小脳です。
そして小脳は、脳幹にある橋と隣接しており、連動して機能しています。従って、脳幹出血によって橋にダメージが生じると、小脳の機能をも低下させ、失調が後遺症として残ります。
脳神経障害
脳神経は、脳幹から出ている12対の神経の事で、先述した嚥下に関連した神経や眼球運動、視覚、聴覚、首の運動など首から上部の器官の運動や感覚を調整している神経です。
脳幹出血によってこれらの神経に障害が出ると、先述した嚥下障害を始め眼振や斜視、めまい、顔の感覚障害が後遺症として生じます。
バランス障害
身体のバランスを保つには、脳幹に中枢核がある前庭脊髄路と網様体脊髄路が関与しています。
前庭脊髄路とは、耳の奥にある前庭器官が頭や首の傾きを感知して脳幹にある前庭核に傾きの情報を伝えます。
そして前庭核から姿勢の調整に関わる体幹や首・下肢の伸ばす(伸展)筋肉に指令を出して平衡バランスを保ちます。
この機構により、僅かな頭の傾きや急な身体の傾きがあっても倒れずに体勢を立て直す事ができます。
網様体脊髄路は、体幹や太腿、肩周りに多く存在する姿勢を保つのに働く筋肉を調整します。
網様体脊髄路が働くことで安定した姿勢を保つ事ができ、動作を行う時のパフォーマンスを高める役割があります。
いわゆる、インナーマッスルと呼ばれる筋肉の働きを調整しています。
脳幹出血を起こすと、これらの姿勢保持機構に支障が出てしまい、ふらつきやすくなり、姿勢が傾いても立ち直れない為に倒れやすくなるなど、後遺症としてバランス不良を伴います。
その為、倒れない為の代償として、手や足を外に広げて歩く(子供の歩き始めのような状態)など常に力が入ってしまい筋疲労が起き、筋痛を生じやすくなります。
めまい
脳幹出血の後遺症は、呼吸障害などの重度なものだけでなく、めまいも生じます。
本来、姿勢保持や平衡バランスは、前庭覚や体性感覚、視覚情報を元に調整しています。
前庭覚とは、身体の傾きを感知する感覚です。これは平衡バランスを調整し、内耳という耳の奥に受容器があります。
平衡感覚は、頭の動きと重力の影響を受けている頭の位置、乗り物に乗った時の慣性力の情報を脳幹に送っています。
これには、半規管と耳石器という耳にある器官が関係しています。
半規管は、動いている時にバランスを崩した際の頭の早い動きに対して敏感に反応して頭の位置を立ち直らせます。
耳石器は、歩いている時や立ち座りをした時の頭の傾き、更に重力による情報を感知し、身体が淀みなく動いている時でも頭の位置が安定するように機能しています。
視覚は、周りの風景(頭の傾きや移動による視覚情報の変化)を参照として、頭の位置を調整しています。
固有感覚は、筋肉や腱に存在する受容器で身体の動きや位置を感知して、脳にその情報を送っています。
これらの感覚情報は、脳幹を経由して姿勢保持や平湖機能に関わっています。
脳幹出血によりこの機構が崩れると、眼球の動きや姿勢保持、平衡感覚をコントロールできなくなります。
この異常感覚と過去の正常な感覚に不一致が起こることで、めまいが生じます。
つまり、めまいは過去と現在の感覚情報のギャップで発生します。
これが、めまいのメカニズムです。
脳幹出血のリハビリ
脳幹出血は、重度の後遺症を伴う為、寝たきりになる場合もあります。
ここでは、脳幹出血のリハビリとして、意識障害が重度な場合(寝たきり)とそうでない場合に分けて解説します。
意識障害が重度(寝たきり)のリハビリ
寝たきり状態のリハビリとして重要なのは、褥瘡予防と拘縮予防です。
褥瘡(じょくそう)とは、長時間同じ態勢を取り続けた際、身体の同じ箇所に圧迫がかかり続けて皮膚の血流が阻害され、周辺の組織が壊死してしまう状態の事を言います。
上記に加え、栄養状態が悪かったり筋肉や皮膚が弱くなると圧迫を受けやすくなる為に褥瘡ができやすくなります。
特に発生しやすいのは、後頭部、肩甲骨、おしりの中央、坐骨(座っている時に座面に当たる左右のおしりの骨)、踵など骨が突出している部分です。
また、背骨が曲がって固まっている人の場合は、背骨の突起部に褥瘡ができやすくなります。
拘縮とは、寝たきり状態や関節を動かさない状態が続くことで筋肉や皮膚などの組織が固く短くなり、関節の動きが狭くなることを言います。
拘縮が悪化すると強直(きょうちょく)という骨の変形が起こります。拘縮は、リハビリで改善することが可能ですが、強直により動かなくなった関節の動きをリハビリで改善することはできません。
また、寝ている時でも身体に重力はかかり続ける為、身体の端にある頭や下肢は重力の影響でベッドへ押し付けられる力が高くなり、突っ張って弓なり様の体勢になります。
これによって、後頭部や踵への圧迫が強まり褥瘡ができやすくなります。
寝たきりになると、これらのリスクが高まる為、リハビリの重要度は高くなります。
従って、リハビリ内容としては、関節可動域訓練とポジショニングが重要になります。
関節可動域訓練は、全身に対して施行しますが、先述した頭部と下肢は重点的に行い、姿勢不良に伴う褥瘡の発生を防止します。
ポジショニングとは、クッションやタオルなどを使用して安楽な体勢を作り、呼吸をしやすくしたり、褥瘡の予防の為に実施します。
褥瘡ができやすい後頭部や踵、おしりへの圧迫を防ぐ為、突っ張ってしまう体勢とは逆の全身が軽く曲がる様な体勢を作ります。
意識のある脳幹出血のリハビリ
意識障害がない場合の脳幹出血のリハビリで必要なことは、残存能力の維持と代償機能の強化です。
残存能力とは、残された力のことです。脳幹出血を起こすと、ダメージを負った脳の回復は望めません。ですから、残っている力(バランス能力や感覚、手足の随意性など)を維持していくことが大切です。
代償機能とは、弱くなった能力を補うことを言います。
脳幹出血の後遺症でバランスをうまく保てなくなった場合、関節可動域の維持と筋力の強化で弱った能力(姿勢を保つ力)を補います。
具体的には、手足を広げる(外転)、伸ばす(伸展)可動域と筋力を維持・強化します。
例えば、綱渡りのように細い足場を歩く場合、手足を広げ、身体を伸ばした方がバランスを保ちやすいですよね?これらの動きは、二本足で歩くという不安定な動作を行う人間に特化しています。
つまり、バランスを保つのに重要な筋肉になります。
可動域で重要なのは、足首の関節です。
先述したように、寝たきり状態が続くと足首は伸びる(底屈)方向に固定されることや足首についている筋肉が萎縮しやすいことから、足関節の可動域は制限されやすい傾向にあります。
歩く、トイレに行く、車いすに移るなどの動作の根本にあるのは立ち上がる動作ですが、この時、足首が曲がらないとまず立ち上がれません。
試しに、足首を曲げずに立ち上がってみてください。
うまく立てませんよね?
ですから、足首の関節可動域を確保する事は重要になります。足関節が可動すれば、膝・股・骨盤・上半身も連動して動いていくことが可能になります。
まとめ
脳幹出血を発症すると、意識障害や呼吸障害など命に係わる重度な後遺症を伴います。
また、前庭覚・視覚・固有感覚を元にバランスの調整を行うのも脳幹の役割である為、脳幹出血によってこれらの感覚情報をうまく処理できないとバランス障害を伴います。
これが影響してめまいを起こします。めまいは、過去の正常な感覚情報と現在の異常な感覚情報のギャップが生じる事で起こります。
脳幹出血のリハビリは、寝たきりの場合は、褥瘡と関節拘縮の予防、意識がある場合は、残存機能の維持と代償機能の強化が重要な要素になります。
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