脳幹出血を発症すると重度の後遺症が残ります。
中でも脳幹出血発症後、意識不明になると寝たきりとなる事や最悪の場合はそのまま死に至る事もあります。
しかし、意識不明になったからといって必ずしも重篤な状態になるわけではありません。
そこで今回は、脳幹出血により意識不明となった場合の回復例について解説していきます!
意識障害と意識不明
ここで最初に、似た表現である意識障害と意識不明について解説します。
意識障害は、その状態により「意識レベルの低下」と「意識の変容」の2種類に分けられます。
意識レベルの低下は、刺激に対しての反応で次の4つに分類されます。
- 昏睡:動きが全くなく、痛み刺激にもまったく反応しない
- 半昏睡:動きがほとんどなく、痛み刺激に顔をしかめるなど僅かに反応する
- 混迷:痛み刺激に対して振り払うなどの動きがある
- 傾眠:刺激を与えると目を覚まし、起きていられるが、刺激がなくなると眠ってしまう
意識の変容は、歩き回る、興奮する、異常な言動などの意識状態になる事を言います。
意識障害は、これらにより意識の状態を区分けして判断します。
また、更に詳細に分類して医療現場などで客観的に評価できるようにするのが、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)やGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)です。
意識不明は、意識を完全に失っている状態の事で、昏睡と同義語になります。ニュースなどで、「意識不明の重体」などと表現されていますね。
事故や事件に巻き込まれた際、何かしらの原因により意識を保てない程危険な状態であるという事です。
意識障害は、医学用語でその状態を分類した用語、意識不明は、一般用語で意識の完全な消失で、「昏睡(=完全な意識消失)」と同義語という事になります。
脳幹出血で意識不明に陥る理由
脳幹には、脳幹網様体と呼ばれる神経の集合体があり、触覚や痛覚、運動覚などの様々な感覚情報が脳幹網様体を通過します。この脳幹網様体が感覚情報を元に大脳を刺激する事で意識を保つことができます。
従って、脳幹出血により脳幹網様体の働きが低下すると、意識を保てなくなります。
また、脳内で出血を起こすと血腫と呼ばれる血の塊ができる(血は次第に固まる性質があります)のですが、この血腫が周辺の脳を圧迫して脳機能を低下させます。
脳幹出血の場合、意識の他、呼吸や心拍数の調節など生命維持に不可欠な機能を担っている脳幹に直接圧迫が加わる為、重度の後遺症を伴い、脳出血の中でも重篤になりやすいのです。
脳幹出血の回復例
残念ながら、一度死んでしまった神経細胞が回復した例はありません。しかし、脳の最上位にある大脳には、可塑性(かそせい)という機能が備わっています。
可塑性とは、機能的・構造的な変化を起こしている性質の事を言います。
つまり脳の可塑性とは、周辺の神経細胞や反対側の大脳が、死んでしまった神経細胞の機能を補う為に働きます。
この性質により、麻痺を患ってもリハビリを行う事で機能が回復して手足が動くようになります。
しかし、これは大脳の話で脳幹にこの様な可塑性の性質があるかはまだ分かっていません。ただ一つ言えるのは、大脳の損傷に比べて脳幹出血は回復例が少なく、予後が悪いということです。
ですが、それはあくまでも傾向であり、回復した例もあります。
例えば、私が在宅リハビリで担当している脳幹出血のご利用者様の話です。
その方は、退院した直後は麻痺側の感覚はほぼ分からず、また麻痺していない手足は突っ張りが強く、とても座っている姿勢を保つことはできませんでした。
推測するに、麻痺側の重度感覚障害により麻痺側半身の状態が分からず、非麻痺側を突っ張らせて支持面を押し付けて過剰に感覚を求めたり、しがみつく様にして倒れないようにしていたのだと思います。
しかし、結果として介助量は増大し姿勢の保持も困難となっていました。(椅子に座ってお尻の半分を椅子からはみ出させると、片麻痺の疑似体験ができます。)
その後リハビリを行い、現在はご家族様の軽い介助で立ち上がる事ができ、座っている姿勢も掴まりながらではありますが、何とか保つことができる状態にまで回復しました。
ですが、多少の突っ張りや座っている時のふらつきは残っています。
これは一つの例ですが、脳幹出血を起こしても回復する例はあります。しかし、介助を要するような重度~中等度の後遺症を伴う例が多い傾向にはあります。
それだけ脳幹出血は予後が不良である為、大脳の出血と比較すると回復する例は多くないかもしれません。
脳幹出血の意識不明の回復例
脳幹出血の生存率は20〜30%と言われていますが、一命を取り止めても意識不明の状態である事があります。では、この意識不明の状態から回復する例はあるのでしょうか?
これに関しては、明確な数値はありません。
回復の程度は、血腫の大きさや発生場所によっても異なりますし、何より個人差があり、同様の障害を負っても回復過程は多種多様です。
ですが、意識不明の状態から回復した例はあります。意識不明で昏睡状態に陥っている中、家族の声が聞こえており、次第に意識が回復したという体験談もあります。
こういった実体験の話を耳にすると、脳の回復例は未知数であるような気がします。
ですが、意識不明になるということは、それだけ重度の脳幹出血である可能性があります。従って、意識不明から回復したとしても自分で呼吸や食事ができないなど重度の後遺症が残るかもしれません。
まとめ
脳幹出血は、脳幹の機能である意識の調節機能に障害を起こす為、出血量が多いと意識不明に陥ることもあります。
ただ、意識不明の状態になっても、そこから回復する例もあります。しかし、一命を取り留めて意識不明から脱してもその後は重度の後遺症が残る可能性が高いです。
また、脳幹は一度損傷すると回復例は少なく、予後が悪い特徴があります。しかし、脳の可能性は未知数です。脳幹出血を起こしても数々の回復例の報告もあります!
情報はあくまで参考にして、自分の可能性に目を向ける事が大切なのかもしれませんね。
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