脳疾患を発症すると意識障害を併発する事もあり、意識の程度によっては予後が不良となる場合もあります。
意識は僕達が活動していく為の土台となるので、そこに障害が生じると寝たきりになる事も…。
僕達が普段何気なく行動できるのは、意識があるからです!
今回は、脳疾患で意識障害が起きる理由や意識レベルを分類する評価法について解説していきます!
目次
脳疾患で意識障害が起きる理由
脳梗塞やくも膜下出血などの脳疾患を発症すると、意識障害を起こす事があります。
意識障害とは文字通り意識の障害の事で、呼びかけに反応しない重篤な状態から朦朧として受け答えが曖昧になるなど様々な状態があります。
この意識障害の度合いを数値化した評価方法があるのですが、これに関しては後述します。
脳疾患を発症して以下の部位に損傷をきたすと、高確率で意識障害が現れます。
- 覚醒の中枢である脳幹(網様体)が直接損傷を受ける
- 広範囲に浮腫や出血、腫瘍などの障害を大脳が負ってしまうことで脳全体にかかる圧力が増し、間接的に脳幹を圧迫
- 大脳皮質の損傷で認知力が低下
脳の機能に関してはちょっと複雑な部分も多いので、分かりやすく解説していきますね(^^)
意識障害は「認知」と「覚醒」の障害
意識は「認知」と「覚醒」の2種類に分けられます。
覚醒は、端的に言ってまえば目が覚めている状態。
目が覚めているからこそ、自分自身含め周囲からの刺激や情報に反応することができます。
認知は、自分自身や周囲を認識する事。
例えば、友人から声を掛けられた際、覚醒していれば声や姿に反応出来て、その声の対象や位置を認識するなど刺激の性質を把握するのが認知。
意識とは、覚醒をベースにして自分自身や状況や環境を認識(認知)する事。
意識障害は「脳幹」と「大脳」の損傷で発生する
この意識の中枢は脳にあり、覚醒は脳幹網様体(図の赤く塗られている部分)、認知は大脳皮質と呼ばれる脳の表面の部分がそれぞれコントロールしています。
画像引用元:看護roo!
大脳に損傷を受けると、認識機能が低下してしまうので時間や場所、時には自分自身の事も認識できなくなってしまいます。
この場合、意識があっても返答が曖昧になれば意識障害があるという事になります。
脳幹に関しては覚醒の中枢である為、ここが損傷を受けると重篤な意識障害を起こします。
脳幹とは、その名の通り大脳の下にある脳の幹の部分を指し、網様体は神経の集団のことを言います。
つまり脳幹網様体とは、「大脳の下にある覚醒の為に働く神経集団」を指します!
脳幹網様体は、触覚や温痛覚、四肢の動きや位置を感知する位置覚や運動覚といったような感覚情報を受け取り、大脳に送り出す役割を果たしています。
これにより大脳は絶え間なく刺激を受けることで、覚醒を保つことができるんです(^^)
僕は学生時代、どうしても起きていなければいけない授業中(先生が怖かったんです)に睡魔と戦っていた時、寝ないように手にボールペンを刺して眠気をごましていました。
授業が終わった時には、手には無数のボールペンの痕が(笑)
意識障害は、意識の中枢である脳幹が直接及び間接的に障害を受けるか、大脳皮質が損傷を受ける事で発生する。
脳幹に関してはこちらの記事でも詳しく解説しています。
意識レベルとは
意識レベルとは、意識障害を呈した時の意識の状態を数値化して客観的(誰でも同じ解釈ができる)に把握できるようにしたものを言います。
そして、この意識レベルの評価方法には、次の2種類があります。
Japan Coma Scale:JCS(ジャパン・コーマ・スケール)
意識レベルの状態に応じて3段階に分類し、更にそれを3段階に細かく分類して合計9段階で表記する事から、「3-3-9度方式」とも呼ばれています。
日本で普及している意識レベルの評価法で、短時間で行える為、緊急時に使われる事が多いです。
数値が大きい程、意識障害が重いということになります。
Ⅰ.覚醒している(一桁の点数で表現)
- 0 意識鮮明
- 見当識(時間、場所、他者を認識する機能)は保たれているが、意識鮮明ではない 1
- 見当識障害がある 2
- 自分の名前、生年月日が言えない 3
Ⅱ.刺激に応じて一時的に覚醒する(二桁の点数で表現)
- 普通の呼びかけで開眼する 10
- 大きく呼びかけたり、強く揺すると開眼する 20
- 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを続けるとかろうじて開眼する 30
Ⅲ.刺激しても覚醒しない(三桁の点数で表現)
- 痛みに対して払いのけるなどの動作をする 100
- 痛み刺激で手足を動かしたり、顔をしかめたりする 200
- 痛み刺激に対し全く反応しない 300
例えば、意識を失っているも肩を叩くことで目が覚めた場合、Ⅱ-30と表記します。
Glasgow Coma Scale:GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)
世界的に使われている評価法です。複雑になっている分、評価に時間はかかりますが、より詳細な意識レベルの把握をすることができます。
この評価法は、3つの要素の該当する項目の合計点数で意識レベルを把握します。
開眼機能(Eye opening)「E」
- 4点:自発的に、または普通の呼びかけで開眼
- 3点:強く呼びかけると開眼
- 2点:痛み刺激で開眼
- 1点:痛み刺激でも開眼しない
最良言語反応(Best Verval response)「V」
- 5点:見当識が保たれている
- 4点:会話は成立するが、見当識が混乱
- 3点:発語はみられるが、会話は成立しない
- 2点:意味のない発声
- 1点:発語みられず
※挿管(喉に管が繋がれている状態)などで、発声ができない場合は「T」と表記。扱いは、1点と同等である。
最良運動反応(Best Motor response)「M」
- 6点:命令に従って四肢を動かす
- 5点:痛み刺激に対して手で払いのける
- 4点:指への痛み刺激に対して四肢を引っ込める
- 3点:痛み刺激に対して緩徐な屈曲運動(徐皮質姿勢※1)
- 2点:痛み刺激に対して緩徐な伸展運動(徐脳姿勢※2)
- 1点:運動みられず
※1:腕は曲がり、足は伸びる方向に固まる(脳疾患のうち、大脳の障害で起こる)
※2:手足が伸びる方向に固まる(脳疾患のうち、脳幹{大脳と脊髄の間にある脳を指す}の障害で起こる)
例えば、意識を失っているも肩を叩くと抵抗するように払いのけて覚醒。会話はできるが、自分のいる場所が分からないという場合、「E2V4M5」という表記になります。
どちらの評価法も医療現場では、スタッフ間の共通認識として活用されています。
しかし、僕たちも気づかないうちに耳にしていると思います。
よく、医療系のドラマの中で、救急で患者さんが搬送されてきた時に看護師役の女優さんが「意識レベル〇〇です!」と言ってるあれです。
数値で表すことで、瞬時に患者さんの意識レベルの把握ができるわけです(^^)
脳疾患に伴う意識障害と予後
脳疾患を発症した後の予後は意識障害があるかどうかで大きく左右されます。
日本神経学会では
「退院時の予後との関連が最も強いものは意識障害であり、現場で意識障害がある場合は、そうでない場合と比較して、4.1倍予後不良となります。」
との記載もあります。
また、「脳卒中発症早期における意識障害がどこまで予後に寄与するか」の論文の中では、高齢になるほど意識障害があると予後が不良になりやすいと報告しています。
更に、くも膜下出血の重症度は発症した時の意識レベルの程度に大きく左右される事からも、意識障害の有無は予後に大きく影響してきます。
一度死んでしまった神経は損傷を受けると完治しません。
なので、深刻な後遺症である意識障害を避ける為には、脳疾患そのものを予防する以外に方法はないんです!
こちらで予防方法を紹介していますので、参考にしてください。
意識障害と意識消失の違い
よく勘違いされやすいのが、意識障害と意識消失(=失神)は一緒ではないかという点。
失神は「大脳皮質全体あるいは脳幹の血流が瞬間的に遮断されることによって起こる姿勢保持能力の欠如を伴う一過性の意識消失発作」と定義されています。
つまり、血流が途絶えることで脳が酸欠になって一時的に意識を失うってことです。
なので脳疾患のように後遺症が残る事はなく、通常であれば数分で症状は回復します。
また、めまいや悪心、目の前が真っ暗になるなどの前兆が現れるのが特徴です。
意識障害は後遺症として残る場合もあるけど、意識消失は一時的なもの
まとめ
意識には覚醒と認知という2つの側面から成っていますが、どちらも中枢は脳。
脳疾患によってこれらの中枢に損傷を受けてしまうと意識障害を生じます。
その意識障害の程度をチェックする方法が、JCSとGCSです。
意識レベルを数値化することで、意識障害の重症度を客観的に把握できます。
脳神経は一度死んでしまうと二度と治らない上、脳疾患を発症した際の意識障害の程度で予後が左右されます。
その為、脳疾患そのものを予防することが重要です!
脳疾患の発症には血圧が大きく関係してきます。
こちらの記事では高血圧の予防に関して詳しく書いていますので、合わせて読んでみてください。