ヒトは握力がある事で物を掴む、握る事が可能で、更に物を操作するというヒト特有の高度で緻密な動作ができます。
しかし、運動麻痺により、握力を発揮できなくなってしまうのが、脳疾患の代表格である脳卒中です。
今回は、脳卒中の中でも割合の多い脳梗塞に焦点を当て、握力向上のリハビリ方法とポイントについて解説していきます。
脳梗塞(脳疾患)で表れる麻痺とは?
脳梗塞で生じた麻痺に伴い、結果として握力は低下します。脳梗塞のリハビリと握力について考える際、麻痺についての理解を深める必要があります。
まず、正常な筋肉の活動について解説します。
筋肉には、力の素である筋力と筋力を発揮する準備を整える筋緊張という2つのタイプがあります。
例えば、動作を行う際、筋肉がダランと脱力していたり、逆に固くなり過ぎていても筋肉はうまく動かせませんよね?
筋肉を動かす時の裏方に当たるのが、筋緊張です!いつでも瞬時に身体を動かし、状況に合わせて力を調整できるのも筋緊張のおかげなんです!
そして、この筋緊張は無意識にコントロールされ、固すぎず柔らかすぎない適度な筋の緊張状態を保っています。
また、筋緊張は脳からの指令と触覚、視覚、位置覚(身体の位置が分かる)などの感覚情報でコントロールされています。
運動するのに身体の位置や肌に触れる感覚が必要なように、それらの感覚を感じるためにも運動が必要である事から、「感覚と運動は表裏一体」であると言えます。
そして、脳梗塞を始め脳疾患を発症すると、脳の運動中枢及び感覚中枢に損傷が生じて身体を意識的かつ柔軟に動かせなくなくなります。
この症状を「麻痺」と言います。また、麻痺は大きく分けて、固くなる痙性麻痺と脱力したように力が入らない弛緩性麻痺の2パターンあります。
つまり!
「筋緊張のコントロールが困難となり、結果として筋力を発揮できなくなる」
ということです。
脳梗塞を発症して握力が落ちてしまうのには、こういった原因があるんです。
ここで、麻痺とはどんな状態なのか、疑似体験の例を挙げると、長時間の正座をした後の足や腕を圧迫したまま寝てしまった時の状態が近いかもしれません。
気づいた時には、自分の手足がズッシリと重くて動かせなくなり、そもそも手足が存在する感覚も分からなくなってしまったという経験ありませんか?
手足を圧迫すると、運動神経や感覚神経も圧迫を受ける為、運動を起こせず、感覚が分からなくなり、痺れも生じます。
原因となっている部位は違います(中枢か末梢の違い)が、麻痺を患うとこのような症状が表れます。
握力を上げるリハビリ【注意点】
よく脳梗塞で麻痺を患った人のリハビリで、「とにかく筋肉をつけないと」「たくさん歩かないと」と思っている他職種の方やご家族の方とお会いします。
しかし、脳梗塞など脳疾患全般のリハビリで特に大切なのは「量より質」です。その上でまず考えなければいけないのは、力のコントロールです。
闇雲に力一杯、握力のリハビリをおこなってしまっては、かえって身体を固くしてしまったり、肩や腰を痛めかねません。
それだけでなく、脳は今ある身体の状態でどう動くかを(意識外で)考え、代償的な動作を学習していきます。
つまり、握力を鍛える為に手に力を入れたいのに、肩や腕に過剰な力が入ってしまうと、非効率的な動かし方を脳は学習します。
結果として、手に力を入れる時は、肩や腕が一緒に固くなるというパターン化した動きが構築されてしまいます!
これは、生きていく上での脳の機能ですから、全てが悪いわけではありません。しかし、効率的かつ負担なく握力を発揮する為には、身体の使い方は注意しなければいけません。
ヒトの動きにクセがあるように、脳は多種多様な身体の使い方を学習します。
例えば箸の持ち方です。箸を使うという動きは、練習をすれば結果として誰でもできます。
しかし、箸の持ち方(使い方)という点では、人によって違いがありますよね?
これは、練習方法による差で、先述したように脳は繰り返し行った動きをインプットして学習します。
結果、ヒトのクセ(学習のクセ)ができます。
ですから、脳の発育がまだ未完成な子供の頃の身体の使い方で、動き方のクセが出てきます。
私の好きな漫画の一つに「スラムダンク」というバスケットボールの漫画があります。
桜木花道という元不良の主人公が、好きな女の子に気に入られたいという不純(笑)な動機でバスケットボールを始め、練習や試合を重ねるうちにバスケットボールを愛し、成長していく。
というのが、ザックリとしたストーリーです。
この主人公、バスケットボールは未経験の素人なのですが、地道な基礎練習を重ねる事で、正しいフォームのドリブルやシュートを会得していきます。
ここでポイントになるのが、未経験という部分です。
何も入っていないコップをイメージして下さい。
経験がないという事は、脳の中にはバスケに関しての運動の情報は何もありません。
つまりコップは空という事になります。
練習をして動き方の情報を脳にインプットしていくと、バスケに関する情報が増えるわけですから、コップの中の水は増えていきます。
つまり、動き方を学習していくわけです。
このように、何も入っていない空のコップには、どんな情報も入りやすい=吸収力があるという事になります。
しかし、既に動き方を学習している場合、コップには既に水が溜まっている状態です。
そこから正しい情報を学習していくには、水を入れ替えなければいけない為、習得するまで時間がかかります。
ですから、桜木花道のような素人や子供の方が覚えが速いんです!
そして、間違った情報を学習する前に正しい情報を学習する事が重要になります!
これらを考慮した上で握力のリハビリを行なう場合の注意点は
- 肩に力が入ってしまう
- 腕全体を曲げて力を入れる
- 手に力を入れようと意識し過ぎる
- 指先に力を入れる
脳梗塞で生じる麻痺は、障害を受けた脳の部位によって多種多様な症状の表れ方をする為、決まった方法があるわけではありません。
また、個人個人の状態によって、リハビリの方法は異なります。
ですが、手のリハビリ(握力含む)を行う場合、傾向として今回挙げた注意点を実行してしまっている方が多い為、見直す必要があるかもしれません。
重度の麻痺で自発的に運動を起こせない人や麻痺手が固まっている場合などは、握力よりも優先して行う必要なリハビリがあります。
それらの人は、専門家(作業療法士、理学療法士)のリハビリを受けて下さい。
握力向上のリハビリ【ポイント編】
次に、握力向上のリハビリのポイントをお伝えします。
握る物は、100均で購入できる手のひらサイズのスポンジ製のボールや粘土などがオススメです。
また、家庭にある物では、食器洗い用のスポンジもオススメです。
理由は、程よい弾力と柔らかさがあり、力の入れ具合を確認しやすいからです。
具体的な方法としては
- 肩はダランと力を抜いて、体側に伸ばす
もしくは、肘から手先まで机に乗せ、肩を前に出す - 手首を腕の背に向かって伸ばした状態で行う
テノデーシスアクションという身体の仕組みがあり、手首を曲げると自然と指が伸び、手首を伸ばすと自然と指が曲がります。これを利用する事で、握力を発揮しやすくなります。 - 掌や指の腹で握る(点ではなく、面で握る)
- 握る物の変形を見て、どれくらい力が入っているか確認する
- 親指と他の指を近づけるようにイメージして握る
動作を行う際に、動きのイメージをする事は重要で、対象物を見たその瞬間から、脳は力の入れ方や動かし方のプログラムを立てます。このプログラムに沿って運動は行われるので、イメージするのとしないのとでは、効果も変わってきます。力任せに行うと、行き当たりばったりの動きになってしまい、効果が薄くなってしまいます。 - 手のひら全体で、握っている感覚を感じながら行う。
また、筋肉が固いと十分に握力を発揮できませんから、筋肉をほぐすストレッチから始めることも大切です。
麻痺を患うと、比較的曲がる方向に身体は固まりやすくなります。その為、伸ばす方向に筋肉をストレッチしましょう!
まとめ
いかがでしたか?
脳梗塞を患うと、脳の運動・感覚中枢に支障を来し、麻痺を伴って筋緊張のコントロールが難しくなり、結果として筋力(握力)が低下します。
ですから、握力を上げる為のリハビリで大切なのは、力のコントロールと動きの正確さです。
過剰な力を抑え、筋緊張をコントロールできれば、自ずと握力は向上します。
力をつける時こそ、フォームややり方に気をつけましょう!
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