脳疾患の中でも代表的な脳の病気である脳卒中は、様々な後遺症を伴います。中には、嚥下障害や意識障害など、栄養管理が困難となる後遺症もあります。
しっかりとした栄養の補給ができないと、健康管理はもちろんの事、麻痺などの後遺症の回復にも影響を及ぼします。
そこで今回は、脳疾患の栄養管理について解説していきたいと思います。
目次
栄養管理に必要な栄養素
栄養管理を考える上で、どんな栄養素が私達の身体に必要か分かりますか?
まずは、生きる上で必要な栄養素についてみていきます!
糖質・タンパク質・脂質・無機質・ビタミンは、私達の身体に必要不可欠な栄養素です。これらを総称して、「五大栄養素」と呼びます。
糖質
糖質はブドウ糖に分解されて、脳や筋肉が働く為のエネルギーになる他、全身に酸素を届ける赤血球もブドウ糖をエネルギー源とするなどの働きがあります。
不足すると、低血糖状態になり、脳や筋肉がうまく働かなくなります。それにより、集中力の低下や倦怠感などを伴います。
タンパク質
タンパク質は、骨や筋肉、髪、爪を作るための材料になります。
不足すると、身体を作る材料が足りなくなるので、筋肉量の減少、肌や髪のトラブルになります。また、筋肉量が減ることで、基礎代謝が低下する為、体温の低下なども伴います。
脂肪
備蓄エネルギーとして重要な脂質。衝撃から身を守ったり、体温の保持の役割があります。他にも細胞膜の成分になったり、ホルモンの材料になります。
不足すると、体力の低下や体温の保持に影響を及ぼします。また、皮膚トラブルの原因にもなります。
無機質
無機質には、カルシウムと鉄があります。
カルシウムは、骨や歯を作る栄養素で、不足すると骨が弱くなってしまいます。鉄は、血液と結びついて酸素を全身に運ぶ役割があります。
不足すると、貧血になりやすくなります。
ビタミン
ビタミンは、糖質・タンパク質・脂質といった三大栄養素の代謝を助けるなど、他の栄養素の働きを促進する役割を担っています!
不足する事で、体調を崩しやすくなったり、肌や骨のトラブル、疲れやすくなるなどの症状が出ます。
脳疾患と後遺症
脳は、身体の様々な機能をコントロールするとても複雑な役割を担っています。その為、様々な脳の病気(脳疾患)によって、多種多様な後遺症を伴います。
今回解説する栄養管理に関連している後遺症は、片麻痺、嚥下障害、意識障害、同名半盲、高次脳機能障害などです。
それぞれ順にみていきましょう。
片麻痺・嚥下障害
片麻痺によって食事に必要な筋肉を障害されてしまう為、嚥下障害を伴い誤嚥のリスクが高まります。
これにより、食べる物の形態や種類が限定され、結果的に栄養管理に影響が出ます。
片麻痺による嚥下障害は、脳疾患の中でも脳卒中や脳腫瘍によって起こります。また、認知症やパーキンソン病などの脳疾患でも嚥下障害を伴います。
意識障害
意識障害は、文字通り意識が障害されている状態ですので、一時的にしろ永続的にしろ直接の栄養摂取はできません。
ですから、脳疾患で意識障害を伴った場合の栄養管理は、経口摂取以外の方法で行う必要があります。
同名半盲
同名半盲とは、脳卒中や脳腫瘍などの脳疾患によって大脳にある視神経が傷ついてしまうと、傷ついた神経と反対の視野が半分だけ欠けて見えなくなることを言います。
脳卒中や頭部外傷、脳腫瘍などの脳疾患で生じます。
高次脳機能障害
高次脳機能障害には、失認や失行などがあります。
失認は、聴覚や視覚など感覚には異常がないのにも関わらず、それらの感覚を介しても対象物を認識できなくなります
失行は、運動麻痺や感覚障害がないにも関わらず、目的とする動作を行えなくなります。
これらにより、食事が困難となる場合がありますから、栄養管理にも影響を及ぼします。
同名半盲と同様に、脳卒中や頭部外傷、脳腫瘍などの脳疾患で生じます。
意識障害以外の脳疾患の後遺症は、経口摂取が可能である事が多い為、リハビリや環境を整える事で栄養管理の改善を図る事ができます。
そこで、意識障害により経口摂取が困難となった場合の栄養管理について焦点を当てて解説していきたいと思います!
脳疾患(意識障害)と栄養管理
脳疾患によって意識障害を伴った場合、どのようにして栄養管理を行っているのでしょうか?
種類別に解説していきます!
静脈栄養
静脈栄養とは、経口摂取が困難な人や消化器系の機能が低下している人に対し、栄養補給の為に血管を通して栄養管理を行うことを言います。
(動脈は心臓から全身へ血液を送る、静脈は全身から心臓へ血液を戻す役割があります)
静脈栄養の栄養管理には、2つの方法があります。
1つ目は、末梢静脈栄養です。
末梢静脈栄養とは、腕などの末梢にある血管から、糖質・アミノ酸・脂肪などの栄養補給を行います。
この方法は、脳卒中発症直後など経口摂取が困難となる時期が、1週間〜10日と一時的な場合に用いられます。
比較的、管理や方法が簡便なのが特徴なのですが、高濃度の栄養素を入れると血管痛や血管の炎症を起こしてしまいます。
ですから、低エネルギーしか投与できず、1日に補給できるエネルギー量が不足しやすいというデメリットがあります。
2つ目は、中心静脈栄養です。
中心静脈栄養は、心臓に近い血管から栄養を補給する栄養管理の方法です。
特徴は、経口摂取が困難な時期が長期に渡る方に用いられ、1日に必要な栄養素の全てを補給する事ができます。
これには、糖質・たんぱく質・脂質の三大栄養素にくわえ、ビタミン・ミネラルも含まれます。
特にビタミンは、不足すると糖の代謝機能が低下し、意識障害や血圧低下など脳疾患症状を悪化させてしまいます。
これらには、大きな問題があります。それは、血管に直接栄養を送りますので、腸は動きません。
腸には、全身の免疫細胞の6割が集まっています。
この免疫細胞は、体内に入ってきた食べ物を腸が消化する(蠕動運動)する事で活性化します。それにより、腸内に侵入してきた病原菌やウィルスを除去してくれます。
その為、腸が働かないと免疫力が低下しやすく、感染症などを起こしやすくなってしまいます。ですから、状態に応じて、経腸栄養の検討や可能であれば経口摂取への移行が重要になります。
寝たきりの方であったり、ストレスなどで食欲が減退している時などに体調を崩しやすいのには、こういった腸の仕組みが関係しているんですね。
ですから、脳疾患などの病気に限らず、水分摂取やバランスの取れた食事、運動などで腸を刺激してあげることで、病気になりにくい身体を作ることができます!
経腸栄養
経腸栄養とは、胃や十二指腸などの消化管に直接栄養を補給する栄養管理の方法です。
経腸栄養の特徴は、経口摂取と同じように内容物が胃腸を通る為、腸の働きが促され、消化機能や免疫力の維持を図る事ができます。
また、血管内に異物である管を入れる静脈栄養に比べて、経腸栄養は血流感染を起こしにくいという特徴もあります。
ですが、胃や腸に異常があると使用できないというデメリットもあります。
この経腸栄養は、2つの方法で栄養管理を行います。
1つ目は、経鼻胃管です。
経鼻胃管とは、鼻から管を通して胃や腸まで入れ、そこから栄養補給をする栄養管理法です。
比較的入れやすいというメリットはありますが、不快感が強く、意識のある方では、自身で抜いてしまう事もあります。また、逆流性食道炎や誤嚥性肺炎のリスクもあります。
2つ目は、胃瘻(いろう)です。
内視鏡と呼ばれる胃カメラを使用して、お腹と胃に開けた穴の事を胃瘻(PEG)と言います。そして、胃瘻を通して直接胃に栄養補給します。
胃瘻は、比較的長期の栄養管理が可能で、鼻に管を入れるより負担は少ないです。そして最大の特徴は、経口摂取と併用して使用することができる点です。
ですから、経口摂取での栄養管理が不十分でも胃瘻で補える為、ステップアップに利用する場合もあります。
デメリットとしては、逆流のリスクや栄養剤が比較的高額である事、半年に一度管の交換が必要になる為、維持・管理に手間がかかります。
まとめ
今回は、脳疾患と栄養管理について解説していきました!
脳卒中や頭部外傷、脳腫瘍などで麻痺や嚥下障害、意識障害などの後遺症を伴うと食事が困難となり、栄養管理に影響を及ぼします。
それらの後遺症により、経口摂取が困難となった場合の栄養管理法には、大きく分けて血管へ栄養補給する静脈栄養と消化器系に栄養補給する経腸栄養の2つの方法があります。
脳疾患などで意識障害や嚥下障害により経口摂取が困難となっても、これらの方法で栄養管理を行う事が可能です。
栄養管理が不十分になれば、麻痺や意識障害などの後遺症の悪化を招くだけでなく、重篤な病のリスクを高めてしまうことにもなりかねません。
栄養管理は、私たちが生きていく上でとても大切な事なのです!
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